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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

台湾の遊郭


              ≪八月十五日≫     ―燦―




  暑さと旅の疲れから、全員ホテルに戻ると昼寝に入った。


 とにかくこう暑くては、街を歩くのも嫌になっちゃう。


 キー!キー!と、油が切れているような扇風機が心地良い。


    「今にも落ちてきそうやな。」



  部屋にただ一つだけある小さな窓が高い所にある。


 そこから見える空は底抜けに青い。


 只今、真昼間。



  どのくらい眠ったのか。


 目を覚ますと、時計は4:30をさしている。


 同室者は、片岡君。


 大会に参加している人ではなく、基隆港で偶然一緒になって付いて来

た若者である。


 彼は大学生で、これから台湾一周を計画している。


    「大会のことを前もって知っていれば、僕も参加してたの        に!」


 と、残念がっていた。



  まだ夕食までには時間があるという事で、二人で街に出てみる

事にした。


 近くの台北新公園までの散歩である。


 南の島らしい公園で、背の高いソテツの木があって、南国の雰囲気を

かもし出している。


 街の中に人が少ないと思ったら、今日は日曜日。


 公園は家族連れやアベックばかりが目に付いてウンザリ。



  散歩から戻って日が落ち始めると、皆が起き出して来た。


 今日の夕食は、宿から少し離れているが、大衆食堂の集まっている円

環公園へ行く事に決まった。


 円環公園と言っても、日本で言う公園ではない。


 食堂が集まる所という事で公園と言う事らしい。


 十字路の真ん中に、安い食堂がバザーのように集まっている所からつ

けられた名前のようだ。



  二組に別れてタクシーに乗り込む頃には、もうすっかり闇が広

がっていた。


 一人100元(890円)の予算で食事を注文し、台湾ビールに手が

伸びる。


 味のデパートと言うだけあって、安くて、うまくて、ボリュームがあ

るときている。


 やはり海の幸が多く、貝の刺身も初めて口にする。


    「こんな美味しいもん食べてこの先資金は大丈夫なんかな!」


    「無くなったら、リタイヤしたら良いやんけ!」


    「そんな!リタイヤなんて嫌やわ!」


    「そんなら食べんとけよ!」


    「それも嫌やわ!」



  ガムとかタバコを売っている小さな子供達が、何度追い返して

もまたやって来る。


    「あそこのトイレ、お金取るやで―!」


 と、言って鉄臣が帰って来た。
 グループでいると、毎日が宴会

になってしまう。


 初めての外国ということもあって、まだ経済観念が乏しくどんどんお

金が消えていくようだ。



  宴会が終わると、近くを歩いてみようという事になった。


 ”泥棒市”と呼ばれている所には、夜店がいくつも出ていて、地元の

人も日曜の夜を楽しんでいる。


 衣類の店がなどが多く、少し路地裏に入ると暗く、広い路地には大道

芸人がずらりと並んでいて、その一つ一つに沢山の人垣が出来たいる。



  猿やヘビなどの動物を使ったり、強靭な身体を作る薬なども売

っている。


 そこに飾られている古い写真の中には、あの懐かしい力道山の勇姿も

合った。


    「もっと面白い所へ行くか!」


 と言う、会長の声に連れられて細い路地に入っていく。


 そこは暗い異様な大道芸人どもの集まりではなく、赤・青・黄・ピン

クなど色とりどりのネオンに、若い魅力ある女性達がいた。


 ”○×閣”と書かれている。



  一階の部屋の中が外から見えるように全てガラス張りになって

いて、衣装も鮮やかに見せびらかすように若い女性が座っているのが見え

る。


 外で立っている女性もいる。


 近くでは、彼女達の子供だろうか、無邪気に遊んでいる。



    「オイオイ!あの白いドレスに、白いスカートの女、抜群      
       やなー!見てみ~!見て―な!」


 と鉄臣が叫ぶ。


 興奮している。


    「そうかな-!俺はあの黒い服の女が良いなー!」


 と誰かが口を挟むと、もうみんなの目はギラギラと輝いている。



    「そんなに良いんなら行って来い!待っててやるぞ!」


 と会長がのたまうのだが、誰一人として動かない。


    「何だ!尻の穴の小さい奴らばかりじゃのー!」


 と言う会長の声に。


    「そやかてー!」


 と、鉄臣がため息をついた。



    「あの入り口の上に”甲”って書いてあるだろ!台湾には        
        甲・乙・丙と三つのランクがあって、”丙”が一番安いん

        や。そのかわり病気持ちが多い。”甲”は病気は持ってへ

        ん。そのかわり高いデ~!」


    「ネー!”甲”はいくらなん?」


    「そやなー!”甲”は、180元~250元が相場やな。ま 

       ー!ちょっ 高いけど、それでも日本よりはずっと安いし、

       身体も顔を抜群やでー!」
 皆、会長の話に息をつめて

       聞き入っている。


    「行くか!」


    「行かなー!」


    「宴会ということやな!」



       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(中

  略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



    「香港行きの船を捜したけど貨物船しかないから、明日は

         もう香港へ飛ぶで~!」


 と言う、会長の声に、一人だけ”ニター!”と笑う奴がいた。


    「ワイは、台湾でやめや!もう先には行かへん。仕事もある

       し、ここで二三日遊んで日本に帰るわ!」


    「おまえ!女と何を約束して来たんや!」


    「何も?」


    「そんなわけ無いやろ。」


    「金もないし、これから三ヶ月旅出来へんし、ここでリタイア

       や。」


    「気に入った女がおったんや!」


    「そんな事、どうでもエエやんか!」


    「しゃーないな!お前が決める事や!誰も口を挟まん。」


    「・・・・すんません!」


    「お前の人生や。」



  あ~~~~あ!


 早くも脱落者第一号。


    「会長があんなとこへ連れて行くからや!」


    「それに耐えるのも、大会や!」


    「俺も残りたいけど、こんな事しにきたんちゃうもん!」


    「誘惑に負けんことも重要や。」


 前途多難な競技大会となって来た。



  我々若いもんにとって、台湾の夜はあまりにも刺激の多い、誘

惑の多い夢の島なのだ。


 初めての外国の地、台湾の一夜がゆっくりと、思い出深く過ぎようと

していた。


 なんと夜の長いことか。


 夜はこれから・・・・・・・・。


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